赤穂浪士の内部で差別の対象となる、中村賀津夫演じる「美少年」を含む足軽身分出身の3人。日本最高の悲劇映画作家伊藤大輔の興味はこの3人と組織や大義との関係にあったのは確かだが、討ち入り後にそれまで差別する側だった浪士達が主人公に得意の舞を披露するように求めるところであっさり和解が成立し、後は切腹直前の、ヒロインとの会えぬままの終の別れのメロドラマ的エピソードへと繋がり、分かり易く終わる。
この最後の二つのエピソードの前に、主人公達が切腹を待つ屋敷の左への横移動から木の枝のフィックスで終わるショットが挿入されているのだが、
映画の冒頭は逆に、木の枝のフィックスから右への移動で屋敷を捉えたショットで、この二つは明確な対をなしている。
本来はこの左移動でエンドマーク、というサインだろう。では、その移動の前のシーンはといえば、討ち入りで門番を命じられた3人の足軽のうちの最年長の老人が、屋敷に入れぬ屈辱のあまり役目も全うせず門から消え失せた無人のショット。
おそらくはプロデューサーサイドとの綱引きがあり、結果的に意図と妥協の入り交じったこの作品の「とりあえず」のラストシーンはこれなのだ。