「鰻丼の上に、トンカツ乗っけて、カレーぶっかけたような映画」

「鰻丼の上に、トンカツ乗っけて、カレーぶっかけたような映画。これ見たら、もう当分映画はいいよ、って言いたくなるような」by黒沢明
『7人の侍』企画中にイメージを語った言葉。


相変わらず胃腸を中心とする不調感を抱えながら久しぶりに朝から仕事4時間。
合間に携帯からパソコンメールをチェックしたら、2年前に指導して奇跡的な成績上昇を果たしながらも単願の国立中に及ばず、公立中学に行った生徒からメール。
すわ、来年の高校受験でのリベンジの依頼かと興奮する。

場所、六本木。いくつか記憶に残る場所を通り過ぎる。
大島ラーメンでチャーハンセット。


買った本
◯『方法叙説』松浦寿輝
◯『博士の異常な健康』水道橋博士


小雨の新宿駅小田急口で待ち合わせをしていたら背後でブッと液体を吹き出す音がした。振り返ると、50代くらいの男が缶チューハイを手にして、僕の方ではなく90度右側を向いている。ああ、かけられなくてよかった、と思っていたら「かかったじゃない」とさらに右側から声がする。仕事用らしいワンピースをきた、30前後の女が強張った顔で男をじっと見ている。肩掛け鞄の左下半分に点々としずくが飛び散った跡がついている。雨のせいにしてはそれ以外の場所には跡がない。
チューハイの男は口の中でもごもご謝罪らしきことを呟いたが、再び酒を口に含んで、同じく酒に酔っているやや年下の傍に居る男と顔を見合わせてにやにやしている。女が二言三言文句を言うが、その態度は変わらない。
「おじさん、あなた悪いよ。きちんと謝んなよ」と女性の加勢をすると、「悪かったよ。ごめんなさい」などと呟くように言ってまたチューハイを持つ手を口に近づける。気の強い女性(ご立派!)は収まらず、「クリーニング代出してもらってもいいくらいですよ」と食い下がる。僕はチューハイの手を抑えて下げさせて、「そんなんじゃ謝ったことにならないでしょ。きちんと謝んなさいよ」というと、「謝ってるだろ!」と連れの男とゴネ始めた。
連れの男は「俺なんか服にゲロ吐かれた事あったけどそいつそのまま逃げちゃったよ。だからその時はしょうがないと思ったんだよ」と筋の通らぬ反論を言う。「女のくせにしつこいな」とも。「俺が何に関係してると思ってんだ」などと凄むので、「はあ。ヤクザさんとでもお知り合いですか?」とメンチ切って返したら、「おお、いろいろ知り合いがおるわい」と答えつつ声が小さくなり、目をそらした。
ゴネる二人のおっさんと女性(時々、僕)の言い合いは暫く続き、待ち合わせの時間帯でもあり、徐々にギャラリーが出来始めた。埒も明かない言い争いを続けるのにもうんざりしたようで、女性は離れた。自分のティッシュで鞄を拭きつつ、黙礼をしてくれたので、背後の二人を指して(どうにもならん)と手を振った。若い方の男が「兄ちゃん、ごめんな」と笑って声をかけてきたので「僕は別に良いんですけど」と答えた。無視すべきだった。


・仲裁はあくまで冷静な、しかし相手の耳に届く声を出すべし。


神よ、なぜこんな世界をつくりたもうた?


新宿駅での待ち合わせはH監督と。
飯を食いにいこうとすると、喫茶店、それも静かな店が良いという。
前日自宅に僕を呼びよせたがっていたので予測はしていたが、しばらくして切り出されたのは一ヶ月勤行をしてみないかというお誘い。やるべきことは多く、そこに賭けてみる気はない、と丁重にお断りした。一昨年から貸されていた宗主の対談本を袋に入れて持って来ていたので返却。
鳥良に移動して鍋を食う。10年前に後輩(今は劇場公開作もある映画監督)の卒論完成祝いで使って気に入り、それ以後何度も誰かと行こうと企画しては悪夢のように、あるいはコメディのように流れ続けた鍋がようやく食えた。胃の重さも忘れてたっぷり食った。
来週から就職がきまっているHにお祝いとして奢ってやった。


朝の元生徒からはまだその後の連絡無し。
この子のお宅はとある有名な事件で不条理な悲惨を味わっている。
その反作用のような、不条理な僥倖に僕も参加できないものだろうか。


久々に盛り沢山の一日。しかし10代の頃はこんなの当たり前だった。
やはりこのくらいの刺激のある毎日の方が頭を活性化するのだよなあ。