『男たちの大和/YAMATO』05 佐藤純彌

ヒットもしたし、意外と評価も高い。
さすが撮影所で鍛えられたベテラン監督で、斬新さはないが十分に見ていられるドラマ主体の前半。
しかしいざ最後の特攻へ向かう船上で、「犬死にじゃないか」と自棄になった士官を沈めようと別の士官が「日本は我々の死で精神論に頼るのをやめ技術の重要さに気がつくだろう」と特攻の意味付けをしてみせる*1と、あまりに当時の日本人を単純化して矮小化にもなっているし歴史認識としても…とあれこれ馬鹿馬鹿しくなってDVDを止める気になった。
まあクライマックスの戦闘シーンだけはどう処理されているか見ておくかと続けたら、そこは見事に『プライベート・ライアン』を消化していて*2引きつけられ、最後まで完走。
この映画の評価はドラマ部分よりもむしろそこに依っている。




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キネ旬の今号は3.11以後の映画界についての特集。キネ旬を本当に久しぶりに買ってみた。製作中止や公開中止、映画館の被害・復興情報が細かく取材されていて、当然だが困っている関係者は多いようだ。
ジャーナリストと二人の監督による福島原発についての対談を読むと、80年代にとっくに読んだ事があるような表層的なマスコミ批判・エコロジー思想ばかりでタイムスリップした気分になった。
昔からこの手の記事を読んだ時に感じていた、つるつるしていてさっぱり議論に入り込めない感覚(それゆえに読んでいてちっとも面白くない)の正体がようやく分かった。
データの議論も無く正しさが決め付けられるし、主張を共有している仲間内での馴れ合いの会話でしかないから、外側に届いて他者を説得する言葉になっていないのだ。



*1:演説する士官を演じるのは長嶋一茂。他に見せ場はなく、このシーンのためにキャスティングされているようだ。役者が説教臭い台詞をいう時特有の臭みがなく、右や左や史実に詳しい人にはあえてスルーさせようとしているのかも。この特攻へのエクスキューズは必要で、さもないと「なぜ彼等は負けに行く?」という疑問が多くの観客を中途半端な気分にさせてしまう。苦心の跡が伺える。

*2:なお、『タイタニック』を下敷きにしたいわゆる「サンドイッチ」の現代の場面は比較にならない程ダサい。